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IFRS実務コラム
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IFRS実務コラム

【ASBJの最新動向と実務への視点】予想信用損失モデルの導入へ ―公開草案からの主な変更点と実務への影響―

はじめに

ASBJは2026年10月16日、改正企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」等を公表した。2025年10月に公表された公開草案を最終化したもので、予想信用損失に関する適用指針第36号と補足文書も公表された。

適用は2030年4月1日以後開始する事業年度の期首からとなり、2027年4月1日以後開始する事業年度から早期適用も認められる(金融商品会計基準第41項(9)(10)、ASBJ解説)。

最終基準では、公開草案の基本方針や骨子を維持しつつ、取扱いの変更、選択肢の追加、実務上の判断に関わる明確化が行われた。本稿では、新基準の全体像ではなく、公開草案から何が変わり、実務上どのような意味を持つのかに焦点を当てる。あわせて、一般事業会社が確認しておきたい点を整理する。

1.SICR判定:個別の債権等の状況を反証に反映

主な変更の一つが、信用リスクの著しい増大(SICR)に関する反証単位の拡大である。

簡素化された方法では、正常先のうち要判定格付に該当する場合、債権等の発生以降に信用リスクが著しく増大したと原則としてみなされる。公開草案では、この取扱いに対する反証は債務者単位に限られていたが、最終基準では、個別の債権等の単位でも「信用リスクが著しく増大していない」と反証できるようになった(予想信用損失適用指針第58項(2)及びBC104項、審議事項(3)-2 別紙(1)①)。

同じ債務者に対する債権であっても、発生時期などによって、当初認識時からの信用リスクの変化は異なり得る。今回の変更は、債務者の現在の格付だけで一律に扱うのではなく、個々の債権等の状況を判定に反映する余地を広げるものといえる。

あわせて、要判定格付とその他要注意先に関する反証方法を示す補足文書に、反証方法が追加された。反証を行う場合には、債権等の発生の認識以降のデフォルト発生リスクの変動に基づいて判断する必要がある。債権等単位での反証には、債権ごとの発生時点の信用リスク情報を保持する必要があり、実務では、判定単位とそれを裏付ける情報の管理が検討事項となる。

2.償却原価:満期保有目的の債券の計算方法に選択肢を追加

満期保有目的の債券に適用する簡便法は、公開草案では簡便法が定額法に限られていたが、最終基準で利息法が加わった(金融商品実務指針第70項)。従前から認められてきた金利差額調整法の利息法・定額法は、継続適用を条件に、企業の選択により簡便法として引き続き使える。現在、利息法または定額法で処理している企業は、従来の方法を継続できるため、この点での実務対応は限定的となるであろう。

また、実効金利法を採用する場合の売却原価を先入先出法で算定するとの記載は、IFRS 9との整合を重視した対応として削除された(同第71項、審議事項(3)-2)。従前は、利息法を採用する場合に先入先出法とされていた。

一方、実効金利法を適用する場合については、定義が「実効金利を用いて複利で各期に配分する方法」と整理された(同第57-2項)。さらに、手数料を実効金利の計算に含めず、収益認識会計基準に準じて処理するための要件について、「手数料の水準が不合理ではない」ことが明確にされた(同第57-10項)。なお、現行基準からの変更点は、実務指針の改正点一覧で確認されたい。

計算方法として簡便法を継続するか実効金利法を採用するかを選択した上で、実効金利法を採用する場合には、関連する手数料をどのように処理するかについても、契約内容と照らした確認が必要となる。

3.予想信用損失の算定:簡素化しても損失発生の可能性は反映

予想信用損失の割引については、主に次の点が明確にされた(適用指針第47項・第48項)。

  • 取得価額から貸倒引当金を控除する債権(典型的には、重要な金融要素を含まない売掛金等)については、割引を行わない。
  • 約定金利の使用は、簡素化された方法の特例ではなく、原則的な定めに位置付ける。
  • リース債権には、リース適用指針第33号の会計処理で使用する割引率と同じ率を用いる。

実務上は、債権の種類ごとに割引の要否と使用する率を整理する必要がある。売掛金等は割引不要、貸付金は実効金利または約定金利、リース債権はリース適用指針第33号の割引率、という整理になる。

シナリオの取扱いについても明確化された。簡素化された方法で、最も可能性の高い中心シナリオのみを考慮する場合でも、信用損失が発生する可能性を反映しなければならない。信用損失が生じないシナリオだけを採用することは認められない(同第43項・第64項)。

つまり、最も起こりそうな見通しでは回収できると考えられる場合でも、それだけを理由に予想信用損失を一律にゼロとすることはできない。シナリオを簡素化することと、損失が発生する可能性を考慮しないことは区別する必要がある。

オーバーレイ調整についても、結論の背景において、簡素化した方法による結果が明らかに実態と異なると企業が判断する場合には、原則的な方法と同様、中心シナリオによる予想信用損失に対して行うことが考えられるとされた(同BC119項)。

4.開示:最大エクスポージャーの算定対象を整理

信用リスクに対する最大エクスポージャーを最もよく表す金額について、公開草案では、債権等のすべてから予想信用損失引当金を控除することとしていた。最終基準では、控除対象が債権と満期保有目的の債券に限定された(予想信用損失適用指針第89項(1))。これは、IFRS 7との整合性を図る修正である(2026年9月17日審議事項(3)-2 第9項(1)②・第10項(2))。

また、最大エクスポージャーとしてコミットメント全額を示す貸出コミットメント等は、「契約期間にわたり取消不能なもの」であることが明確にされた(適用指針第89項(3)、審議事項(3)-2 別紙(3)⑫)。

なお、貸借対照表上、債権及び満期保有目的の債券は貸倒引当金控除後の価額となる(金融商品会計基準第14項・第16項)。一方、貸出コミットメント等は、予想信用損失の金額が貸借対照表価額とされ(同第26-3項)、その表示は、結論の背景において、引当金として取り扱い、予想信用損失引当金などの適切な勘定科目で表示することが考えられるとされた(同第90-5項)。この表示の考え方は、公開草案では明らかでなく、最終基準で結論の背景に追加されたものである(審議事項(3)-2 別紙(3)②)。

5.一般事業会社は何を確認するか

ここまで公開草案からの主な変更点を取り上げた。最後に、公開草案から維持されている取扱いも含め、一般事業会社が適用に向けて押さえておきたい点を整理する。

一般事業会社では、まず自社の売掛金、貸付金、保有債券などに、どの取扱いが関係するかを整理することが出発点となる。特に確認しておきたいのは、次の点である。

売掛金の貸倒実績率をそのまま使えるとは限らない

貸倒実績率を用いる場合も、適用指針第49項から第51項に従った調整が必要となる(同第38項)。過去の貸倒実績だけでなく、現在の状況や将来の経済状況の予測を反映するため、必要な調整内容と、そのために用いる情報を検討する必要がある。

簡素化された方法の適用には、信用リスク管理の実態を確認する

金融検査マニュアルを踏まえた債務者区分、またはこれと同等の信用リスク管理を行っている場合、SICR判定と予想存続期間に関する簡素化を適用できる可能性がある(同BC94項)。

一般事業会社であることだけで適用の可否が決まるわけではない。自社の取引先区分や与信管理が、基準の想定する管理に該当するかを確認したい。

全期間の予想信用損失を用いる対象と選択肢を確認する

収益認識会計基準の範囲に含まれる取引から生じた重要な金融要素を含まない受取手形・売掛金等は、全期間の予想信用損失で算定する(金融商品会計基準第28-4項)。

一方、重要な金融要素を含む受取手形・売掛金等と、リースにより生じた債権については、全期間の予想信用損失で算定することを、それぞれ独立して選択できる。さらに、リースにより生じた債権は、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分ごとに選択することも可能である(同第28-5項)。

自社が保有する資産について、全期間の予想信用損失による算定が必須となるものと、会計方針として選択できるものを区別し、採用する方針を整理する必要がある。

契約資産・リース投資資産も対象となる

契約資産にも、金融商品会計基準における受取手形、売掛金等の取扱いに準じて、予想信用損失の定めが適用される(収益認識会計基準第77項、金融商品会計基準の結論の背景第68-2項)。収益認識会計基準第77項は、公開草案では改正の対象とされていなかったが、最終基準で改正された(審議事項(3)-2 別紙(3)35)。

また、リース投資資産のうち、将来のリース料を収受する権利に係る部分は、リースにより生じた債権の定めに準じて処理する(同結論の背景第68-4項)。この取扱いは独立して選択でき、開示もリースにより生じた債権に準じることが、最終基準で明確にされた(リース会計基準BC57項、別紙(3)36)。適用対象を整理する際には、売掛金や貸付金だけでなく、これらの資産も含めて確認したい。

おわりに

今回の最終化では、公開草案の骨子を維持しながら、判定単位や計算方法、開示の集計範囲など、実務に関わる修正が加えられた。

企業にとっては、まず自社が保有する債権等について、適用する算定方法と選択可能な取扱いを整理することが必要となる。そのうえで、現在の与信管理や貸倒実績のデータで対応できる部分と、追加の情報収集や計算対応が必要な部分を明らかにしたい。

公開草案に基づいて準備を進めていた企業では、今回の変更が、判定手順、計算方法、開示資料の作成に影響するかを確認することが当面の対応となる。

新リース会計への対応は「簡便処理の選択」から―日本基準の選択肢を生かし、実務負担を抑える―

新リース会計

新リース会計基準への対応では、契約の収集、リース期間の見積り、使用権資産・リース負債の計算、システムへの登録など、多くの作業が想定されます。しかし、詳細な計算に着手する前に整理したいのが、短期リース・少額リースに関する簡便的な取扱いです。日本基準には、企業の実務負担に配慮した選択肢があります。その活用方針によって、導入時だけでなく、適用後の継続的な管理や注記の負担も変わります。

■不動産でも少額リースになり得る

少額リースというと、パソコンや事務機器を思い浮かべるかもしれません。しかし、日本基準のいわゆる「300万円基準」は、原資産そのものの価格で判定する方法ではありません。企業の事業内容に照らして重要性が乏しく、かつ、リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリースを対象とします。借上社宅や従業員用駐車場も、要件を満たせば対象となり得ます。

適用指針第22項(2)では、①この300万円基準を踏襲する方法と、②新品時の原資産の価値が少額であるかによる方法のいずれかを選択し、首尾一貫して適用します。②はIFRS第16号と同様の方法であり、IFRSには①に相当する300万円基準はありません。このため、IFRS適用企業が日本基準の個別財務諸表との処理差を抑えるには、②の選択が合理的です。一方、IFRSへの移行を予定していない企業では、借上社宅や従業員用駐車場などの不動産にも適用を検討できる①を含め、自社の契約構成に適した方法を選ぶことが重要です。この選択は、その後の会計論点の検討範囲や実務負担に影響するため、早期に決めるべき会計方針といえます。

■契約期間で判定するという選択肢

第23項では、300万円基準の判定に用いる期間を、借手のリース期間に代えて、契約に定められた期間とすることが認められています。

例えば、月額10万円、契約期間2年の借上社宅であれば、契約期間に対応するリース料は240万円です。更新によって長期間利用する見込みがあっても、契約期間で判定する取扱いを採用すれば、金額要件を満たします。事業内容に照らして重要性が乏しいことも確認できれば、少額リースとして費用処理できます。

従業員用駐車場も、比較的小規模な区画を個別に借り、1年又は2年ごとに更新する契約では、契約期間のリース料が300万円以下となるケースが考えられます。こうした契約が多い企業では、少額リースの適用により、詳細な期間見積りやオンバランス計算の対象を大きく絞れる可能性があります。

■計算と注記の対象を先に絞る

実務では、リースを含む契約を把握したうえで、選択した会計方針に従い、少額リース・短期リースに該当する範囲を明確にします。短期リースは、リース開始日に借手のリース期間が12か月以内で、購入オプションを含まないリースです。契約が1年更新であることだけで、短期リースと判断するものではありません。

簡便処理の対象を整理してから、残る契約の期間、割引率、計算方法を検討する。この順序により、重要な契約の判断に人員と時間を振り向けられます。

注記にも効果があります。短期リースに係る費用の注記には、少額リースにも該当する契約の費用を含める必要はありません。少額リース該当分を除いた短期リース費用が限定的であれば、企業規模や財務諸表全体に照らして、当該注記の重要性が乏しいと判断することも考えられます。

■重要性を踏まえた運用を設計する

少額リース・短期リースに該当せず、オンバランスが必要となる契約についても、実務負担を軽減する選択肢があります。使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合には、利息相当額を控除せずに使用権資産・リース負債を計上する、いわゆる「利子込法」を適用できます。割引率の設定や利息の区分計算が不要となるため、オンバランス処理に伴う計算・管理の負担も抑えられます。

IFRSへの移行を予定していない企業では、日本基準で認められた簡便的な取扱いを十分に活用し、自社に適した対応範囲を設計することが合理的です。新基準の影響は、賃借料の総額だけでは測れません。簡便処理と重要性の検討を先に行い、計算・管理・開示に必要な作業を見極めることが、無理なく継続できる実務につながります。

IFRS導入で経営管理は何が変わるのか ー花王とLIFULLの事例から考えるー

IFRS導入支援

花王とLIFULLの事例から考える

IFRS導入の目的として、財務情報の国際的な比較可能性と、グループ経営管理の高度化が挙げられる。前者は、国内外の投資家が企業を比較しやすくするという意味で理解しやすい。一方、会計基準を変えることが、社内の経営管理にどうつながるのかは、もう少し具体的に考えてみる。

2015~2025年にIFRSを適用した企業から30社を選び、公表資料の目的を分類したところ、比較可能性は27社、経営管理への寄与は20社で確認できる。なお、複数該当を認めた有意抽出の調査であり、全適用企業の構成比を示すものではないが、経営管理が重要な検討テーマであることはうかがえる。

同じ物差しで何を比較するのか

グループ各社の利益を比較する際には、会計処理の違いによる差と、販売や生産など事業活動による差を見分ける必要がある。共通の会計方針に基づく数値は、そのための土台になる。海外にも子会社を持つ企業にとって、IFRSをグループ共通の基準とすることには、この土台を整える意味がある。

ただし、連結財務諸表の作成に必要な会計方針の統一と、各社の日常的な管理で共通の情報を使うことには、範囲の違いがある。経営管理に役立てるには、どの事業単位で、どの情報を、いつ把握するかを決め、その数値を予算や業績評価に結び付ける必要がある。2社の事例は、このつながりを考える手掛かりになる。

花王に見る会計基準と管理情報の接続

花王は2016年12月期第1四半期からIFRSを適用し、グループの会計基準をそろえることで、共通の情報に基づく管理を目指している。その具体像は、会計財務部門の担当者らが説明した、管理会計の整備の経緯から読み取れる。

同社は2003年のSAP導入に伴い、アジア子会社の管理会計を標準化する。その後、決算期統一と2016年のIFRS導入を経て、2018年に管理情報を一元化するGMAPを導入している。2024年の取材では、ブランドの損益を国・地域別に確認し、月次の分析や見通しを事業責任者との対話に用いる運用が説明されていた。

ここからは、IFRSが会計上の共通基盤を担い、管理情報の標準化とシステムが、その情報を事業に使える形にするという関係が見えてくる。ブランド別損益や月次の予測管理はIFRSが定めるものではなく、花王が自社の事業に合わせて整えてきた仕組みである。

LIFULLに見る情報を作り続けるための体制

もう一社は、不動産・住宅情報サービスを展開するLIFULLである。旧社名ネクストの時代に、2016年3月期から日本基準に替えてIFRSを適用している。2023年の連結売上規模は、花王の約1兆5,326億円に対し、LIFULLは約364億円である。決算月や業種は異なるが、企業規模の違う事例として取り上げる。

LIFULLのCFO・阿部和彦氏は、支援会社のインタビューで、IFRSへの変更当時、専門知識を持つ特定の人に業務が集中していたと説明している。外部の支援を受けて業務を可視化し、経費精算のチェック負荷を軽減するとともに、標準化や決算早期化に向けて何を改善するかを明確にした。

この事例で確認できるのは、負荷軽減と改善事項の具体化である。決算日数の短縮や経営判断の改善まで達成したとは資料から判断できない。しかし、基準を統一しても、それを運用できる人や手順が不足すれば、情報の作成が一部の担当者に依存するという課題が見えてくる。

花王が示すのは、整備した情報を事業管理に使う仕組みであり、LIFULLが示すのは、その前提となる実務体制の重要性である。これは、経営管理に情報を活用するには、会計方針をそろえることに加え、安定して情報を作る工程も必要だという、二つの側面を示している。

経営管理の高度化を自社の課題に置き換える

2社の事例から考えられるのは、経営管理の高度化とは、会計基準の統一を出発点として、必要な情報を収集し、それを経営判断に使う運用まで整えることだという点である。IFRSはその共通基盤の一つを担うが、管理の粒度や判断の基準は、企業が決める必要がある。

例えば、海外子会社の利益が落ちた理由を把握したいのか、ブランド別の収益性を比較したいのか、投資先となる事業を選びたいのかによって、必要な情報は変わる。IFRS導入の検討時に、こうした問いを具体化しておけば、会計方針だけでなく、報告項目やシステム、担当者の役割まで検討しやすくなるかもしれない。

花王のような大規模なグループの体制を、そのまま中堅企業に導入する必要はなく、海外子会社や事業が少なければ、共通の報告様式と月次の確認会議から始める方法も考えられる。投資の規模は、会社の大きさに加え、事業の多様性や情報の分散度に応じて決めるべきであろう。

会計方針や管理情報の統一は、日本基準でも取り組める。それでもIFRSを選ぶ意義を説明するには、海外を含むグループ共通の会計基盤としての利点と、それを使って解決したい経営課題を結び付けることが必要であろう。「経営管理の高度化」という導入目的を、誰が何を判断できるようにするのかという言葉に置き換えることが、導入計画を具体化する第一歩になるのかもしれない。

【ASBJの最新動向と実務への視点】予想信用損失モデルの導入へ ― 日本基準に盛り込まれた実務上の簡素化 ―

2026年10月5日の企業会計基準委員会(ASBJ)では、2025年10月に公表された予想信用損失に関する公開草案へのコメント対応等を踏まえ、金融商品会計基準等の最終化が審議され、出席委員全員の賛成により公表が議決された。併せて、予想信用損失に関する補足文書の公表も了承された。字句等の修正は委員長に一任され、公表に向けた最終調整を残す段階となった。ASBJの公表計画では、2026年10月の最終化が目標とされている。

今回の議決を踏まえ、日本基準における金融資産の減損について、IFRS第9号との主な相違点を整理する。予想信用損失(ECL)の基本的な枠組みは共通するが、日本の実務に配慮した簡便的な取扱いが多く盛り込まれている。以下では、2025年10月公表の公開草案に基づき、主な取扱いを紹介する。

既存の内部信用格付を活用したSICR判定

原則として、当初認識以降に信用リスクの著しい増大(SICR)がなければ12か月のECLを、増大があれば全期間のECLを算定する点は、両基準で共通する。

日本基準では、簡素化された方法として、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて付与している内部信用格付の区分を活用し、SICRを判定する方法が提案されている(予想信用損失適用指針案第56項)。かつて金融検査マニュアルで用いられていた債務者区分を参考に、既存の信用リスク管理実務を活用する方法である。債権単位で当初認識時からの信用リスクの変化を把握するためのデータ整備・保存やシステム構築等の負担に配慮したものである(BC91項~95項)。

具体的には、正常先に区分される内部信用格付を、優良格付・中間格付・要判定格付に区分する。優良格付・中間格付に属する債務者への債権等はSICRなしとし、要判定格付及びその他要注意先への債権等は原則としてSICRありとする。また、要管理先、破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先への債権等はSICRありとして取り扱う(第57項~62項)。

ただし、要判定格付については、前期末が中間格付であった場合、前期末も要判定格付で前期以前にSICRなしと反証していた場合、又は前期末に当該債務者への債権等が存在しなかった場合には、債務者単位でSICRなしと反証できる。これは、IFRS第9号の考え方を参考に、前期末の状況等を用いた判定を認め、債権ごとの追跡負担を軽減したものである(第58項(2)、BC98項・BC100項~103項)。

一方、その他要注意先の反証は、当初認識以降のデフォルト発生リスクの変動に基づき、個別の債権等の単位で行う。要管理先及び破綻懸念先以下には、この反証の取扱いは設けられていない(第60項・第62項)。

予想残存期間とシナリオの見積りにも簡便な方法

IFRS第9号では、予想信用損失の測定に当たり、金融商品の予想存続期間を見積もる際には、残存契約期間を基礎として、期限前償還、期限延長、コール・オプション等の影響を考慮することが求められる。ただし、予想存続期間を信頼性をもって見積もることができない稀な場合には、残存契約期間を使用することとされている。

これに対し、日本基準では、内部格付を活用する方法を採用する場合、要判定格付、その他要注意先及び要管理先に区分される債権等について、類似する債権グループの区分ごとに算定した平均残存期間を使用することが認められている。また、当該平均残存期間の算定の基礎となる状況に重要な変化がない場合には、継続して使用することができ、個々の債権について予想存続期間を見積もり、更新する実務負担が軽減される。

将来予測シナリオについて、IFRS第9号では、予想信用損失を、起こり得る結果を考慮した偏りのない確率加重額として測定することが求められる。ただし、単一のシナリオによる測定であっても、この要求を満たす場合には認められるため、必ずしも複数のシナリオを設定する必要はない。

一方、日本基準では、信用損失が発生する可能性の評価に当たり、最も発生可能性が高い中心的な将来予測シナリオのみを考慮することが認められている(第64項)。したがって、IFRS第9号のように確率加重額としての測定結果を求めることを前提とせず、中心シナリオに基づく測定を認める点に、実務上の簡便性がある。

割引率と債券の適用範囲にも違い

IFRSでは、ECLを原則として当初認識時の実効金利又はその近似値で割り引く。日本基準では、一定の債権の償却原価算定に約定金利を用いる場合、ECLにも同じ金利を用いることが提案されている。実務負担を軽減するとともに、資産の測定と引当金の算定を整合させる取扱いである。

また、ECLの適用対象にも相違がある。IFRS第9号では、償却原価又はFVOCIで測定する負債性金融資産がECLの対象となる。一方、日本基準では、その他有価証券に分類される債券は原則として対象外とされている。ただし、貸付金の代替として銀行が引き受けて保有する貸付金代替性私募債については、経済的実質が貸付金とほぼ同一であることから、貸付金に含めて取り扱い、ECLの適用対象とすることが提案されている。その他有価証券へのECLの適用については、金融資産の分類・測定に関する今後の基準開発と併せて検討する方針とされている。

IFRSに近づけながら、日本企業の実務にも配慮

これらの簡便的な取扱いは、既存の内部信用格付や債務者区分の活用など、主に金融機関等における貸付金の信用リスク管理・算定実務を踏まえ、ECLモデルの導入に伴う実務負担の軽減を図るものである。

一方、通常の売掛金等の営業債権を中心とする一般事業会社では、信用リスクの著しい増大を判定せずに全期間のECLを認識する簡便的アプローチが適用される。また、貸倒実績に基づく期日経過日数別の引当率を用いることができる。なお、過去の情報をそのまま使わず、現在の状況と将来予測を反映する調整が必要である。このため、複数の将来予測シナリオの構築が一律に求められるわけではなく、既存の貸倒実績や債権管理情報を活用した算定が可能と考えられる。ただし、長期貸付金や関係会社貸付金等については、営業債権に認められる簡便的アプローチの適用対象とはならず、信用リスクの著しい増大の判定を含む原則的なECLモデルに基づく検討が必要となる。

ASBJ「予想信用損失に関する適用指針(案)」PDF

ASBJ 第585回企業会計基準委員会の概要(2026年10月5日)

【留意事項】本稿は、2025年10月公表の公開草案及び2026年10月5日のASBJにおける審議結果を基礎としている。今後公表される最終基準において、規定の内容、条文番号及び結論の背景(BC)の項番号等が変更される可能性があるため、正式公表後には最終版の確認が必要となる。

新リース会計基準 ー継続利用の見込みを、リース期間にどう反映するか-

新リース会計

新リース会計基準におけるリース期間の検討では、継続利用の必要性を説明できても、具体的に何年とするかの判断が難しい場合があります。事業上重要な拠点であり、相応の設備投資も行っている。しかし、そのことから、どこまでの延長が合理的に確実といえるのでしょうか。

判断にあたっては、継続利用を促す経済的インセンティブを把握したうえで、想定する期間について、延長オプションを行使すること、又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実かを評価する必要があります。適用指針の不動産に関する設例は、この判断過程を具体的に示しています。

利用の見込みと「合理的に確実」

企業会計基準適用指針第33号BC29項は、「合理的に確実」が相当程度高い蓋然性を示すとしています。また、BC30項は、経営者の意図や見込みのみによって期間を決めるのではなく、経済的インセンティブを生じさせる要因に焦点を当てる考え方を示しています。ASBJ:適用指針第33号BC29~BC30項

したがって、「移転予定がない」「長期利用を想定している」という説明には、その見込みを裏付ける経済的な理由と、当該理由がどの期間の判断を支えるかという検討が必要です。過去の更新実績も参考になりますが、過去と同じ期間をそのまま将来に当てはめることには慎重な評価が求められます。

戦略的に重要な店舗でも、期間には判断の境界がある

設例8-3では、戦略的に重要な店舗について、5年、10年、20年の利用シナリオを検討し、リース期間を10年としています。5年後の部分的なリニューアルは実施しても、10年後の全面的な設備再設置まで行うかは、費用や経済状況に左右されるためです。ASBJ:適用指針第33号・設例8-3(9)~(12)

この設例を読むうえで重要なのは、店舗の戦略的重要性と追加投資の必要性を併せて評価している点です。戦略的に重要であることは、一定の追加投資を負担してでも利用を継続する理由になります。しかし、それによって、将来のあらゆる投資を伴う延長まで合理的に確実になるわけではありません。

また、設備の使用可能期間をリース期間に機械的に採用しているわけでもありません。その期間までの利用と、その後の再投資を伴う利用について、それぞれ延長が合理的に確実かを判断した結果として、期間を決定しています。

解体コストと建替えコストを、異なるシナリオで評価する

設例8-4では、借地上の建物について、20年までの利用と20年超の利用を検討しています。途中解約時の除却・解体コストと転貸予定を踏まえ、20年までは解約しないことが合理的に確実と判断する一方、20年超は建替えコストを考慮し、合理的に確実ではないと判断しています。ASBJ:適用指針第33号・設例8-4(8)~(12)

ここでは、利用を終了すると生じるコストと、利用を続けるために必要となるコストが、異なる期間の判断に作用しています。既存の建物を利用できる期間は、解体に伴う負担が解約を抑制します。一方、建替えが必要となる段階では、新たな投資を負担してまで土地の利用を継続するかが問われます。

自社事業の収益が計画を下回っても、建物を転貸して利用する予定が、借地契約を解約しないと判断する根拠となっています。現在の事業の継続見込みに加え、資産をどのように利用し続けるかまで検討している点に、この設例の特徴があります。

シナリオの比較と、合理的確実性の判断

両設例から得られる実務上の示唆は、事業上の重要性や投資額を列挙するだけでなく、それらを具体的な利用シナリオに結び付けることです。

例えば、既存設備を利用する期間、部分的な改修を伴う期間、全面的な更新を伴う期間では、継続の判断に影響する事情が異なります。現実的に想定し得るシナリオを設定し、各シナリオについて、契約条件、投資の内容、解約に伴うコスト、事業上の位置付け等を総合的に評価することが考えられます。

ただし、相対的に継続の可能性が高いシナリオを選ぶだけでは十分ではありません。採用する期間について、延長又は非解約が「合理的に確実」という水準を満たすかを判断する必要があります。費用の大小やシナリオ間の比較は、その判断を支える分析です。

検討結果には、採用した期間を支える根拠と、それを超える期間について合理的に確実と判断しなかった理由を残すことが有用です。「継続利用を見込んでいる」という説明から一歩踏み込み、経済的インセンティブと具体的な期間、そして合理的確実性の判断を一貫して結び付けることが、リース期間の結論を支えます。

新リース会計基準の影響額はどう試算する? ― 契約調査から概算までの進め方 ―

新リース会計

新リース会計基準の適用準備において、経営者や関係部門から早い段階で求められるのが、「貸借対照表への影響はどの程度になるのか」という問いである。

しかし、影響額は現在の年間賃借料を集計するだけでは算定できない。リース期間、支払条件、割引率、短期リース・少額リースの取扱いなど、複数の前提を整理する必要がある。

本稿では、契約調査の結果を使用権資産及びリース負債の概算額へつなげるための進め方を解説する。

影響額は年間賃借料だけでは分からない

新リース会計基準では、借手は原則として、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上する。リース負債は、リース期間中に支払うリース料のうち、開始日時点で未払いのものを現在価値に割り引いて算定する。

したがって、試算にあたっては、少なくとも次の情報が必要となる。

  • 月額又は年額のリース料
  • 契約開始日及び契約終了日
  • 支払時期及び支払回数
  • 中途解約の可否及び解約条件
  • 延長・解約オプションの内容
  • 賃料改定やフリーレントの有無
  • 維持管理費等のサービス部分の有無
  • 原状回復義務等の有無

契約調査票には、契約金額だけでなく、これらの情報を契約単位で把握できる項目を設けることが重要である。

まずは試算の目的と精度を決める

影響額の試算に着手する前に、何のための試算かを明確にする必要がある。

適用準備の初期段階で、経営者への報告やプロジェクトの規模を検討するために行う試算と、会計方針を確定した後に行う適用開始時点の計算では、求められる精度が異なる。

初期段階の試算であれば、すべての契約について詳細な会計判断を完了させるのではなく、一定の前提を置いて概算することも考えられる。

一方、概算である以上、どのような前提を置いたのかを明確にしなければならない。特に、リース期間、割引率、少額リース等の範囲は、試算結果に大きな影響を与える。

例えば、次のように試算条件を整理しておくことが考えられる。

例えば、次のように試算条件を整理しておくことが考えられる。

項目初期試算における取扱いの例
対象会社連結子会社を含む、又は主要会社に限定
対象契約不動産、車両、設備、IT機器等
基準日直近月末又は適用開始予定日
リース期間契約期間を基本とし、重要な契約は個別検討
割引率契約区分や期間に応じた暫定的な利率
短期リース適用方針を仮定して除外又は別集計
少額リース採用予定の会計方針を仮定して除外又は別集計
未回答会社・部門前年実績等から補完するか、未反映として表示

試算結果だけを示すのではなく、このような前提条件と対象範囲を併せて示すことにより、経営者や監査人との認識のずれを防ぐことができる。

試算額を大きく左右するリース期間

影響額の試算において、特に重要となるのがリース期間である。

例えば、月額賃料が同じ契約でも、リース期間を2年と判断する場合と5年と判断する場合では、計上されるリース負債の金額は大きく異なる。

不動産賃貸借契約では、契約書上の期間が2年であっても、自動更新が繰り返され、継続使用が見込まれることがある。この場合、契約書の記載だけでなく、過去の使用期間、移転費用、建物附属設備の残存経済価値、代替物件の有無、将来の事業計画などを踏まえて、更新後の期間を含めるか検討する必要がある。

初期試算ですべての契約を個別に判断することが難しい場合には、不動産、車両、設備などの契約類型ごとに暫定的なリース期間を設定し、金額的重要性の高い契約について個別に検討する方法も考えられる。

また、不動産のリース期間を3年、5年、7年とした場合など、複数の前提による試算結果を比較すると、リース期間の判断が貸借対照表に与える影響を把握しやすくなる。

割引率と例外処理も試算に影響する

リース負債は将来のリース料を現在価値に割り引くため、割引率の設定も必要となる。初期試算では、契約期間、通貨、所在国、契約主体などに応じて、一定の暫定的な割引率を設定することが考えられる。

ただし、国内契約と海外契約、短期の車両リースと長期の不動産賃貸借契約などを、すべて同一の利率で計算することが適切とは限らない。どのような区分で割引率を設定したのか、前提を明確にしておく必要がある。

また、短期リース及び少額リースについては、一定の要件のもとで賃貸借処理を選択できる。日本基準では、リース契約1件当たりの金額が300万円以下のリースについて賃貸借処理を行うことができる取扱いも設けられている。

初期調査では、これらを直ちに対象から除外するのではなく、「資産・負債計上の対象」「短期リース」「少額リース」「追加確認が必要な契約」に区分して集計すると、会計方針による影響の違いを把握しやすい。

概算から段階的に精度を高める

適用準備の初期段階では、未回答の部門がある、契約書の最新版が確認できない、リース期間の判断が完了していないなど、必要な情報がすべてそろっていないことも多い。

そのため、最初から完全な金額を求めるのではなく、次のように段階的に精度を高める方法が現実的である。

  1. 賃借料明細等による全体規模の把握
  2. 契約調査結果を反映した契約単位の概算
  3. リース期間、割引率及び例外処理を反映した試算
  4. 契約変更等を反映した適用開始時点の本計算

各段階で試算額が変わること自体は問題ではない。重要なのは、どの契約を対象とし、どのような前提を用い、前回の試算からなぜ金額が変わったのかを説明できることである。

影響額を早期に把握することは、経営者への報告、予算への反映、財務指標への影響確認、システム導入範囲の検討にもつながる。まずは一定の前提に基づいて概算し、契約調査や会計方針の検討に応じて段階的に精度を高めることが、新リース会計基準への対応を円滑に進めるポイントとなる。

新リース会計基準の実務負荷 ー貸手・サブリースにも設けられた日本基準ならではの選択肢ー

新リース会計

― 貸手・サブリースにも設けられた日本基準ならではの選択肢 ―

新リース会計基準では、借手の会計処理が大きく変更される一方、貸手の会計処理については、リースの定義・識別や収益認識基準との整合性を図る点を除き、従来の日本基準の考え方が基本的に引き継がれています。

もっとも、貸手にとっても、契約の中にリースとサービスが含まれる場合の区分や、ファイナンス・リースにおける利息計算など、一定の実務対応が必要になります。

また、サブリースについては、原則的にはヘッドリースとサブリースをそれぞれ別の取引として会計処理することになります。

こうした中、日本基準には、財務諸表の有用性を大きく損なわない範囲で、貸手や中間的な貸手の実務負担に配慮した取扱いが設けられています。

リースとサービスを分けなくてよい場合がある

貸手が提供する契約には、資産のリースだけでなく、保守や管理などのサービスが含まれていることがあります。

原則として、貸手は契約の対価を「リースを構成する部分」と「リースを構成しない部分」に区分し、それぞれを別々に会計処理します。

しかし、日本基準では、

・リースを構成しない部分が収益認識基準の対象であり、

・リース部分とサービス部分の収益を計上する時期・パターンが同じ

・リース部分がオペレーティング・リースに分類される

という要件を満たす場合には、契約ごとに両者を分けずにまとめて会計処理することができます。

リースが契約の主たる部分であれば、全体をオペレーティング・リースとして処理し、それ以外の場合には、収益認識基準に基づく一つの履行義務として処理します。

ASBJは、この取扱いについて、リース部分とサービス部分を分けても分けなくても収益計上額が変わらない場合にまで詳細な区分を求める必要性は高くないとして、適用上のコストと複雑性を低減する観点から設けたものと説明しています。

すべての複合契約について機械的に対価を分解するのではなく、会計処理の結果が実質的に変わらない場合には、より簡便な処理を選択できるということです。

重要性が乏しければ、貸手も複雑な利息計算を省略できる

ファイナンス・リースでは、貸手はリース料に含まれる利息相当額を、原則として利息法により各期に配分します。

この場合、期首のリース投資資産やリース債権の残高に応じて金融収益を計算するため、契約ごとの返済スケジュールを管理する必要があります。

しかし、日本基準では、貸手としてのリースに重要性が乏しい場合には、利息相当額をリース期間にわたり定額で配分することができます。

重要性については、未経過の貸手のリース料と見積残存価額の合計額が、それらと営業債権の期末残高との合計額に占める割合が10%未満であることが一つの基準となります。

ただし、この簡便的な取扱いは、リースを主たる事業としている企業には適用できません。

本業とは別に、設備や金型、不動産などを貸手としてリースしている企業にとっては、リースの重要性が低い場合にまで契約単位で精緻な利息計算を求めないという、実務的な取扱いといえます。

サブリースにも、日本基準独自の例外

サブリースとは、例えば、A社から物件を借りたB社が、その物件をさらにC社に貸す取引です。

この場合、B社はA社との関係では借手であり、C社との関係では貸手となります。

原則的には、B社はヘッドリースについて借手として使用権資産とリース負債を計上し、サブリースについては貸手としてファイナンス・リース又はオペレーティング・リースの会計処理を行います。

しかし、日本基準では、一定のサブリースについて例外的な取扱いが設けられています。

その一つが、中間的な貸手がヘッドリースについて実質的にリスクを負っていない場合です。

例えば、

・サブリース先からリース料を受け取らなければ、ヘッドリースの貸手への支払義務も生じない

・ヘッドリースの支払額が、サブリースで受け取る金額の一定割合として決められている

・中間的な貸手が、サブリースの契約条件や借手を決める権利などを持っていない

といった要件をすべて満たす場合です。

この場合、中間的な貸手は、ヘッドリースについて使用権資産とリース負債を計上せず、受取リース料と支払リース料の差額のみを損益として計上することができます。

ASBJは、IFRS第16号にはこのような例外が設けられていないことを明示したうえで、我が国の不動産取引等の実態を踏まえ、国際的な比較可能性を大きく損なわない範囲で例外を設けています。

従来からの「転リース」の処理も継続

もう一つ、日本の実務を踏まえて残されたのが「転リース取引」です。

転リース取引とは、原資産の所有者から資産を借り、それと概ね同一の条件で同じ資産を第三者にリースする取引です。

一定の要件を満たす場合、中間的な貸手は、貸借対照表上はリース債権又はリース投資資産とリース負債の双方を計上します。

一方、損益計算書では、受取リース料と支払リース料をそれぞれ売上高、売上原価、支払利息などとして総額表示するのではなく、両者の差額を「転リース差益」などの手数料収入として各期に配分することができます。

この取扱いは従来の日本基準にも存在していたものであり、新基準でも変更せず引き継がれました。

ASBJは、その理由の一つとして、原則的なサブリース会計を適用することによる財務諸表作成者の負担の増加への対応を挙げています。

原則を理解したうえで、実務に合った処理を選択する

このように貸手・サブリースについても、

・オペレーティング・リースにおけるリース部分とサービス部分の一体処理

・重要性が乏しい貸手リースの利息相当額の定額配分

・リスクを負わない中間的な貸手のサブリースに対する例外処理

・従来からの転リース取引の会計処理

など、実務負担に配慮した取扱いが設けられています。

特にサブリースでは、契約を形式的に二つのリースとして処理するだけでは、取引の実態に合わなかったり、実務負担が必要以上に大きくなったりするケースがあります。

まず取引の実態と原則的な会計処理を確認したうえで、日本基準が認めている例外的・簡便的な取扱いを適切に選択する。

借手の場合と同様、これが新リース会計基準への対応を必要以上に複雑にせず、適用後も継続可能な業務プロセスを構築するうえで重要になると考えます。

なお、日本基準とIFRS第16号との相違点はこのほかにもありますが、本稿では、実務負担への配慮という観点から、日本基準に設けられた貸手及びサブリースの特徴的な取扱いを取り上げています。

新リース会計基準の実務負荷 ― 日本基準ならではの実務負担への配慮 ―

新リース会計

― 日本基準ならではの選択肢 ―

新リース会計基準への対応では、契約を洗い出し、リースに該当する契約や財務諸表への影響を把握した後、「どのような会計処理を採用するか」という会計方針を決めていくことになります。

新基準では、借手は原則としてリースについて使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上します。しかし、すべてのリースについて同じように複雑な計算が必要になるわけではありません。

日本基準には、IFRS第16号との整合性を図りながら、企業の実務負担にも配慮した、日本基準ならではの選択肢が設けられています。

従来の「300万円基準」を継続できる

代表的なのが少額リースです。

少額リースや短期リースについては、使用権資産とリース負債を計上せず、リース料を費用として処理することができます。

日本基準では、従来から使われてきた**「1契約当たりのリース料総額300万円以下」**という基準を、少額リースの判定方法として引き続き選択できます。

一方、IFRS第16号と同様に、「新品だった場合の資産価値が少額かどうか」で判断する方法も選択でき、この場合は5,000米ドル程度が一つの目安とされています。

これまで所有権移転外ファイナンス・リースについて300万円基準により賃貸借処理を行ってきたものは、新基準でも少額リースとして同様の処理を継続することが可能です。

従来の実務をできるだけ活かせるようにした、日本基準の特徴の一つです。

オンバランスするリースにも簡便な方法

少額リースに該当せず、使用権資産とリース負債を計上する場合にも簡便な方法があります。

原則的には、将来のリース料を現在価値に割り引き、その後も元本と利息を区分して計算します。しかし、使用権資産総額の重要性が乏しい場合には、利息相当額を区分せずに処理する「利子込法」や、利息相当額をリース期間にわたって定額で配分する方法を選択できます。

重要性の判断には「10%」という目安があります。具体的には、会計上決定した借手のリース期間に基づく未経過リース料の期末残高が、当該未経過リース料と有形固定資産・無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10%未満である場合です。

少額リースや短期リース、原則的な利息法を適用するリースなどは、この判定対象から除くことができます。

つまり、すべての契約について一律に精緻な計算を行うのではなく、会社全体への影響を踏まえて会計処理を設計できるということです。

日本独特の「再リース」にも配慮

もう一つ特徴的なのが「再リース」です。

車両や複合機などでは、当初のリース期間終了後、当初の月額リース料程度の年間リース料で、1年間の再リースを行うことがあります。

新基準では、一定の場合、この再リース期間を当初のリース期間に含めず、別のリースとして会計処理することが認められています。

日本特有の商慣行を踏まえ、国際的な比較可能性を大きく損なわない範囲で、追加的な実務負担を抑えるための取扱いです。

IFRSに近づけながら、日本企業の実務にも配慮

このように日本基準には、

  • 300万円基準による少額リース
  • 重要性が乏しい場合の利子込法等
  • 日本特有の再リースへの対応

など、IFRS第16号にはない取扱いが残されています。

さらに、少額リースについては費用額の注記も求められていません。 開示によって得られる情報の有用性と、その情報を作成するための実務負担とのバランスにも配慮されています。

新リース会計基準への対応では、対象契約を網羅的に把握し、適切に会計処理することが基本です。しかし、そのためにすべての契約を一律に扱う必要があるわけではありません。

まず全体像を把握し、重要性や基準が認める簡便的な取扱いを踏まえて、会計方針と業務プロセスを設計する。

これが、新基準への対応を必要以上に複雑にせず、適用後も継続できる仕組みをつくるためのポイントと考えます。

なお、日本基準とIFRS第16号との相違点はこのほかにもありますが、本稿では、実務負担への配慮という観点から、日本基準に設けられた借手リースの特徴的な取扱いを取り上げています。

新リース会計基準で企業が苦労するポイント― 契約の棚卸しと継続管理をどう進めるか ―

新リース会計基準の適用準備では、会計処理の検討以前に「対象となる契約をどう漏れなく把握するか」が大きな課題となる。本稿では、契約書の収集、各部門への調査、調査票の設計から適用開始時点の更新まで、実務上つまずきやすいポイントを解説する。

新リース会計基準の適用に伴い、借手のリースについては、従来のファイナンス・リースとオペレーティング・リースの分類に基づく会計処理から、原則としてすべてのリースについて使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上する会計処理へと大きく変わる。

適用にあたっての最初の難関が「リースの識別」である。

不動産賃貸借契約やリース・レンタル契約など、従来からリースとして認識されていた契約だけではなく、業務委託契約やその他のサービス契約についても検討対象となり得る。契約の中にリースの要素が含まれているかを検討し、含まれている場合には、新リース会計基準に基づく会計処理が必要となる。

各拠点や総務部門等では「サービス契約」として管理されていても、会計上はリースに該当する場合がある。このため、契約名称だけで対象を絞り込むのではなく、契約内容を確認してリース該当性を検討し、その判断結果を監査人に説明できるようにしておく必要がある。

契約書を「集める」だけでも案外大変

リースの識別を行うためには、まず対象となり得る契約書を収集する必要がある。しかし、この契約書の収集作業が案外大変である。

例えば、法務部の契約台帳だけで調査を始めると、契約変更、自動更新、覚書等を十分に追えず、後から各部門への再調査が必要となることがある。多くの企業では、法務部門が契約締結前の契約条件をレビューしているため、過去に締結した契約の一覧は存在する。一方、法務部門は必ずしも契約締結後の更新状況や取引の継続状況まで管理する役割を担っているわけではない。

そのため、契約が現在も継続しているのか、自動更新されているのか、契約条件が変更されているのかについては、実際に契約を管理している事業部門に確認しなければ分からないことがある。また、契約変更に伴う複数の覚書について、どれが最新のもので、どの原契約に紐づくのかを確認するのも一苦労である。

経理部門だけでは契約調査は完結しない

契約調査を経理部門だけで完結させることも困難である。総務、営業、生産、物流、IT、研究開発、子会社など、実際に契約を締結・管理している各部門の協力が不可欠となる。

このため、リースの識別フェーズでは、一般的に調査票やチェックシートを各拠点・部門に展開し、リース判定に関連する質問への回答を依頼するとともに、対象となる契約書のコピーを収集する方法が考えられる。

ここで重要となるのが、入力対象と契約収集範囲を最初に明確にすることである。

借手側の費用取引だけを対象とするのか、貸手側の収益取引も調査対象とするのか。グループ内取引をどのように扱うのか。また、契約書の網羅性をどのように担保するのか。

こうした調査方針を明確にしないまま調査票を展開すると、後から追加調査が必要となり、手戻りが生じる可能性がある。

また、IFRSと異なり、日本基準では、1件当たりの契約金額が300万円以下であれば、少額リースとして賃貸借処理を選択することができる。このため、調査票展開時に契約ごとの金額を入力する欄を設けておくと、少額リースを取り得る対象の全体を把握できるため、お薦めである。

※1 借手のリースは原則として使用権資産及びリース負債を計上するが、短期リース及び少額リースについては一定の要件のもとで例外的な取扱いが認められている。

したがって、現時点で有効な契約について、最新の賃料・リース料や契約条件を適切に参照できる状態まで契約書類を整理することが、最初の大きな業務負荷となる。

棚卸しで終わらせず、適用後の継続管理につなげる

契約の棚卸しが適切に行われれば、その後の業務プロセス構築フェーズにおいて、ProPlusなどのリース管理システムへ契約情報を入力する作業も比較的スムーズに進めることができる。ただし、一度契約を棚卸しすれば終わりではない。

例えば3月決算会社であれば、強制適用年度2028年3月期の期首2027年4月1日時点の契約情報を確定するため、既存契約の更新・条件変更の有無、新規契約の締結状況等を各拠点・部門に改めて確認し、契約情報を更新する必要がある。さらに適用後も、新規契約、契約更新、賃料変更、契約期間の変更等は継続的に発生する。

したがって、新リース会計基準への対応では、初年度の契約棚卸しそのものをゴールとするのではなく、「誰が新規契約や契約変更を把握し、誰がリース該当性を判断し、どのタイミングで経理部門やリース管理システムに情報を連携するのか」まで業務プロセスとして設計しておくことが重要である。