新リース会計基準の適用準備では、会計処理の検討以前に「対象となる契約をどう漏れなく把握するか」が大きな課題となる。本稿では、契約書の収集、各部門への調査、調査票の設計から適用開始時点の更新まで、実務上つまずきやすいポイントを解説する。
新リース会計基準の適用に伴い、借手のリースについては、従来のファイナンス・リースとオペレーティング・リースの分類に基づく会計処理から、原則としてすべてのリースについて使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上する会計処理へと大きく変わる。
適用にあたっての最初の難関が「リースの識別」である。
不動産賃貸借契約やリース・レンタル契約など、従来からリースとして認識されていた契約だけではなく、業務委託契約やその他のサービス契約についても検討対象となり得る。契約の中にリースの要素が含まれているかを検討し、含まれている場合には、新リース会計基準に基づく会計処理が必要となる。
各拠点や総務部門等では「サービス契約」として管理されていても、会計上はリースに該当する場合がある。このため、契約名称だけで対象を絞り込むのではなく、契約内容を確認してリース該当性を検討し、その判断結果を監査人に説明できるようにしておく必要がある。
契約書を「集める」だけでも案外大変
リースの識別を行うためには、まず対象となり得る契約書を収集する必要がある。しかし、この契約書の収集作業が案外大変である。
例えば、法務部の契約台帳だけで調査を始めると、契約変更、自動更新、覚書等を十分に追えず、後から各部門への再調査が必要となることがある。多くの企業では、法務部門が契約締結前の契約条件をレビューしているため、過去に締結した契約の一覧は存在する。一方、法務部門は必ずしも契約締結後の更新状況や取引の継続状況まで管理する役割を担っているわけではない。
そのため、契約が現在も継続しているのか、自動更新されているのか、契約条件が変更されているのかについては、実際に契約を管理している事業部門に確認しなければ分からないことがある。また、契約変更に伴う複数の覚書について、どれが最新のもので、どの原契約に紐づくのかを確認するのも一苦労である。
経理部門だけでは契約調査は完結しない
契約調査を経理部門だけで完結させることも困難である。総務、営業、生産、物流、IT、研究開発、子会社など、実際に契約を締結・管理している各部門の協力が不可欠となる。
このため、リースの識別フェーズでは、一般的に調査票やチェックシートを各拠点・部門に展開し、リース判定に関連する質問への回答を依頼するとともに、対象となる契約書のコピーを収集する方法が考えられる。
ここで重要となるのが、入力対象と契約収集範囲を最初に明確にすることである。
借手側の費用取引だけを対象とするのか、貸手側の収益取引も調査対象とするのか。グループ内取引をどのように扱うのか。また、契約書の網羅性をどのように担保するのか。
こうした調査方針を明確にしないまま調査票を展開すると、後から追加調査が必要となり、手戻りが生じる可能性がある。
また、IFRSと異なり、日本基準では、1件当たりの契約金額が300万円以下であれば、少額リースとして賃貸借処理を選択することができる。このため、調査票展開時に契約ごとの金額を入力する欄を設けておくと、少額リースを取り得る対象の全体を把握できるため、お薦めである。
※1 借手のリースは原則として使用権資産及びリース負債を計上するが、短期リース及び少額リースについては一定の要件のもとで例外的な取扱いが認められている。
したがって、現時点で有効な契約について、最新の賃料・リース料や契約条件を適切に参照できる状態まで契約書類を整理することが、最初の大きな業務負荷となる。
棚卸しで終わらせず、適用後の継続管理につなげる
契約の棚卸しが適切に行われれば、その後の業務プロセス構築フェーズにおいて、ProPlusなどのリース管理システムへ契約情報を入力する作業も比較的スムーズに進めることができる。ただし、一度契約を棚卸しすれば終わりではない。
例えば3月決算会社であれば、強制適用年度2028年3月期の期首2027年4月1日時点の契約情報を確定するため、既存契約の更新・条件変更の有無、新規契約の締結状況等を各拠点・部門に改めて確認し、契約情報を更新する必要がある。さらに適用後も、新規契約、契約更新、賃料変更、契約期間の変更等は継続的に発生する。
したがって、新リース会計基準への対応では、初年度の契約棚卸しそのものをゴールとするのではなく、「誰が新規契約や契約変更を把握し、誰がリース該当性を判断し、どのタイミングで経理部門やリース管理システムに情報を連携するのか」まで業務プロセスとして設計しておくことが重要である。