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【ASBJの最新動向と実務への視点】予想信用損失モデルの導入へ ― 日本基準に盛り込まれた実務上の簡素化 ―

2026年10月5日の企業会計基準委員会(ASBJ)では、2025年10月に公表された予想信用損失に関する公開草案へのコメント対応等を踏まえ、金融商品会計基準等の最終化が審議され、出席委員全員の賛成により公表が議決された。併せて、予想信用損失に関する補足文書の公表も了承された。字句等の修正は委員長に一任され、公表に向けた最終調整を残す段階となった。ASBJの公表計画では、2026年10月の最終化が目標とされている。

今回の議決を踏まえ、日本基準における金融資産の減損について、IFRS第9号との主な相違点を整理する。予想信用損失(ECL)の基本的な枠組みは共通するが、日本の実務に配慮した簡便的な取扱いが多く盛り込まれている。以下では、2025年10月公表の公開草案に基づき、主な取扱いを紹介する。

既存の内部信用格付を活用したSICR判定

原則として、当初認識以降に信用リスクの著しい増大(SICR)がなければ12か月のECLを、増大があれば全期間のECLを算定する点は、両基準で共通する。

日本基準では、簡素化された方法として、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて付与している内部信用格付の区分を活用し、SICRを判定する方法が提案されている(予想信用損失適用指針案第56項)。かつて金融検査マニュアルで用いられていた債務者区分を参考に、既存の信用リスク管理実務を活用する方法である。債権単位で当初認識時からの信用リスクの変化を把握するためのデータ整備・保存やシステム構築等の負担に配慮したものである(BC91項~95項)。

具体的には、正常先に区分される内部信用格付を、優良格付・中間格付・要判定格付に区分する。優良格付・中間格付に属する債務者への債権等はSICRなしとし、要判定格付及びその他要注意先への債権等は原則としてSICRありとする。また、要管理先、破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先への債権等はSICRありとして取り扱う(第57項~62項)。

ただし、要判定格付については、前期末が中間格付であった場合、前期末も要判定格付で前期以前にSICRなしと反証していた場合、又は前期末に当該債務者への債権等が存在しなかった場合には、債務者単位でSICRなしと反証できる。これは、IFRS第9号の考え方を参考に、前期末の状況等を用いた判定を認め、債権ごとの追跡負担を軽減したものである(第58項(2)、BC98項・BC100項~103項)。

一方、その他要注意先の反証は、当初認識以降のデフォルト発生リスクの変動に基づき、個別の債権等の単位で行う。要管理先及び破綻懸念先以下には、この反証の取扱いは設けられていない(第60項・第62項)。

予想残存期間とシナリオの見積りにも簡便な方法

IFRS第9号では、予想信用損失の測定に当たり、金融商品の予想存続期間を見積もる際には、残存契約期間を基礎として、期限前償還、期限延長、コール・オプション等の影響を考慮することが求められる。ただし、予想存続期間を信頼性をもって見積もることができない稀な場合には、残存契約期間を使用することとされている。

これに対し、日本基準では、内部格付を活用する方法を採用する場合、要判定格付、その他要注意先及び要管理先に区分される債権等について、類似する債権グループの区分ごとに算定した平均残存期間を使用することが認められている。また、当該平均残存期間の算定の基礎となる状況に重要な変化がない場合には、継続して使用することができ、個々の債権について予想存続期間を見積もり、更新する実務負担が軽減される。

将来予測シナリオについて、IFRS第9号では、予想信用損失を、起こり得る結果を考慮した偏りのない確率加重額として測定することが求められる。ただし、単一のシナリオによる測定であっても、この要求を満たす場合には認められるため、必ずしも複数のシナリオを設定する必要はない。

一方、日本基準では、信用損失が発生する可能性の評価に当たり、最も発生可能性が高い中心的な将来予測シナリオのみを考慮することが認められている(第64項)。したがって、IFRS第9号のように確率加重額としての測定結果を求めることを前提とせず、中心シナリオに基づく測定を認める点に、実務上の簡便性がある。

割引率と債券の適用範囲にも違い

IFRSでは、ECLを原則として当初認識時の実効金利又はその近似値で割り引く。日本基準では、一定の債権の償却原価算定に約定金利を用いる場合、ECLにも同じ金利を用いることが提案されている。実務負担を軽減するとともに、資産の測定と引当金の算定を整合させる取扱いである。

また、ECLの適用対象にも相違がある。IFRS第9号では、償却原価又はFVOCIで測定する負債性金融資産がECLの対象となる。一方、日本基準では、その他有価証券に分類される債券は原則として対象外とされている。ただし、貸付金の代替として銀行が引き受けて保有する貸付金代替性私募債については、経済的実質が貸付金とほぼ同一であることから、貸付金に含めて取り扱い、ECLの適用対象とすることが提案されている。その他有価証券へのECLの適用については、金融資産の分類・測定に関する今後の基準開発と併せて検討する方針とされている。

IFRSに近づけながら、日本企業の実務にも配慮

これらの簡便的な取扱いは、既存の内部信用格付や債務者区分の活用など、主に金融機関等における貸付金の信用リスク管理・算定実務を踏まえ、ECLモデルの導入に伴う実務負担の軽減を図るものである。

一方、通常の売掛金等の営業債権を中心とする一般事業会社では、信用リスクの著しい増大を判定せずに全期間のECLを認識する簡便的アプローチが適用される。また、貸倒実績に基づく期日経過日数別の引当率を用いることができる。なお、過去の情報をそのまま使わず、現在の状況と将来予測を反映する調整が必要である。このため、複数の将来予測シナリオの構築が一律に求められるわけではなく、既存の貸倒実績や債権管理情報を活用した算定が可能と考えられる。ただし、長期貸付金や関係会社貸付金等については、営業債権に認められる簡便的アプローチの適用対象とはならず、信用リスクの著しい増大の判定を含む原則的なECLモデルに基づく検討が必要となる。

ASBJ「予想信用損失に関する適用指針(案)」PDF

ASBJ 第585回企業会計基準委員会の概要(2026年10月5日)

【留意事項】本稿は、2025年10月公表の公開草案及び2026年10月5日のASBJにおける審議結果を基礎としている。今後公表される最終基準において、規定の内容、条文番号及び結論の背景(BC)の項番号等が変更される可能性があるため、正式公表後には最終版の確認が必要となる。