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IFRS導入で経営管理は何が変わるのか ー花王とLIFULLの事例から考えるー

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花王とLIFULLの事例から考える

IFRS導入の目的として、財務情報の国際的な比較可能性と、グループ経営管理の高度化が挙げられる。前者は、国内外の投資家が企業を比較しやすくするという意味で理解しやすい。一方、会計基準を変えることが、社内の経営管理にどうつながるのかは、もう少し具体的に考えてみる。

2015~2025年にIFRSを適用した企業から30社を選び、公表資料の目的を分類したところ、比較可能性は27社、経営管理への寄与は20社で確認できる。なお、複数該当を認めた有意抽出の調査であり、全適用企業の構成比を示すものではないが、経営管理が重要な検討テーマであることはうかがえる。

同じ物差しで何を比較するのか

グループ各社の利益を比較する際には、会計処理の違いによる差と、販売や生産など事業活動による差を見分ける必要がある。共通の会計方針に基づく数値は、そのための土台になる。海外にも子会社を持つ企業にとって、IFRSをグループ共通の基準とすることには、この土台を整える意味がある。

ただし、連結財務諸表の作成に必要な会計方針の統一と、各社の日常的な管理で共通の情報を使うことには、範囲の違いがある。経営管理に役立てるには、どの事業単位で、どの情報を、いつ把握するかを決め、その数値を予算や業績評価に結び付ける必要がある。2社の事例は、このつながりを考える手掛かりになる。

花王に見る会計基準と管理情報の接続

花王は2016年12月期第1四半期からIFRSを適用し、グループの会計基準をそろえることで、共通の情報に基づく管理を目指している。その具体像は、会計財務部門の担当者らが説明した、管理会計の整備の経緯から読み取れる。

同社は2003年のSAP導入に伴い、アジア子会社の管理会計を標準化する。その後、決算期統一と2016年のIFRS導入を経て、2018年に管理情報を一元化するGMAPを導入している。2024年の取材では、ブランドの損益を国・地域別に確認し、月次の分析や見通しを事業責任者との対話に用いる運用が説明されていた。

ここからは、IFRSが会計上の共通基盤を担い、管理情報の標準化とシステムが、その情報を事業に使える形にするという関係が見えてくる。ブランド別損益や月次の予測管理はIFRSが定めるものではなく、花王が自社の事業に合わせて整えてきた仕組みである。

LIFULLに見る情報を作り続けるための体制

もう一社は、不動産・住宅情報サービスを展開するLIFULLである。旧社名ネクストの時代に、2016年3月期から日本基準に替えてIFRSを適用している。2023年の連結売上規模は、花王の約1兆5,326億円に対し、LIFULLは約364億円である。決算月や業種は異なるが、企業規模の違う事例として取り上げる。

LIFULLのCFO・阿部和彦氏は、支援会社のインタビューで、IFRSへの変更当時、専門知識を持つ特定の人に業務が集中していたと説明している。外部の支援を受けて業務を可視化し、経費精算のチェック負荷を軽減するとともに、標準化や決算早期化に向けて何を改善するかを明確にした。

この事例で確認できるのは、負荷軽減と改善事項の具体化である。決算日数の短縮や経営判断の改善まで達成したとは資料から判断できない。しかし、基準を統一しても、それを運用できる人や手順が不足すれば、情報の作成が一部の担当者に依存するという課題が見えてくる。

花王が示すのは、整備した情報を事業管理に使う仕組みであり、LIFULLが示すのは、その前提となる実務体制の重要性である。これは、経営管理に情報を活用するには、会計方針をそろえることに加え、安定して情報を作る工程も必要だという、二つの側面を示している。

経営管理の高度化を自社の課題に置き換える

2社の事例から考えられるのは、経営管理の高度化とは、会計基準の統一を出発点として、必要な情報を収集し、それを経営判断に使う運用まで整えることだという点である。IFRSはその共通基盤の一つを担うが、管理の粒度や判断の基準は、企業が決める必要がある。

例えば、海外子会社の利益が落ちた理由を把握したいのか、ブランド別の収益性を比較したいのか、投資先となる事業を選びたいのかによって、必要な情報は変わる。IFRS導入の検討時に、こうした問いを具体化しておけば、会計方針だけでなく、報告項目やシステム、担当者の役割まで検討しやすくなるかもしれない。

花王のような大規模なグループの体制を、そのまま中堅企業に導入する必要はなく、海外子会社や事業が少なければ、共通の報告様式と月次の確認会議から始める方法も考えられる。投資の規模は、会社の大きさに加え、事業の多様性や情報の分散度に応じて決めるべきであろう。

会計方針や管理情報の統一は、日本基準でも取り組める。それでもIFRSを選ぶ意義を説明するには、海外を含むグループ共通の会計基盤としての利点と、それを使って解決したい経営課題を結び付けることが必要であろう。「経営管理の高度化」という導入目的を、誰が何を判断できるようにするのかという言葉に置き換えることが、導入計画を具体化する第一歩になるのかもしれない。